心の中の操作主義!

仕事の技法 (講談社現代新書) | 田坂 広志 |本 | 通販 | Amazon

 

 

田坂広志 仕事の技法より、「操作主義」について共有させていただきます!

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イソップ物語に、「北風と太陽」という有名な寓話がある。

よく知られているように、これは、北風と太陽が、どちらかが旅人のマントを脱がせることができるか、その力を競う話であり、北風は、力づくで無理やり脱がそうとして失敗するが、太陽は、旅人をポカポカと暖めることによって、自然にマントを脱がせることに成功するという話である。

この寓話に「心理学版・北風と太陽」というものがある。

まず北風が、「俺が、旅人のマントを脱がせてみせる」と言って、旅人のマントを剝ぎ取ろうと、強い風を吹き付ける。

しかし、旅人は、寒さのあまり、ますますしっかりとマントをつかんで離さないため、北風の試みは失敗に終わる。

ここまでは、同じ物語。

そこで太陽が、「私が、旅人のマントを脱がせてみましょう」と言って、旅人をポカポカと暖める。

すると、旅人は、暑さのあまり、自然とマントを脱ぐのではなく、太陽に向かってこう言うのである。

「太陽さん。そうしてポカポカ暖めて、私のマントを脱がそうとしているのでしょう。でも、残念ながら、私はあなたの思いとおりにはなりませんよ・・・」

この「心理学版・北風と太陽」という寓話は、「相手を自由に操ろう」とすることの危うさと、それが「相手から見抜かれてしまう」ことの怖さを教えている。

「自分の心」の中にある「操作主義」

それを見つめなければならない。

「操作主義」とは、相手を心理的に操作して、自分の意のままに自由に操ろうとすること。

我々は、プレゼンであろうが、会議であろうが、人間を相手にする仕事においては、自身の心の中に忍び込む、その「操作主義」に気がつく必要がある。

なぜならこの「操作主義」が心の中で動いている場面は、仕事の世界において、しばしば見受けられるからである。

我々が「操作主義」に流されるのには、深い理由がある。

それは、我々の心の中に、「自分の方が、相手よりも優れている」「自分の方が、相手よりも偉い」と思いたがる「小さなエゴ」があるからである。

特に顧客を相手にした営業においては、表面的には、顧客を「偉い立場」において仕事をしなければならないため、そのことの心理的反動として、心の奥深くで「小さなエゴ」が、「実際には、自分の方が、顧客より偉い」と思いたがるからである。

そして、その思いが、「操作主義的な技術」に惹かれていく。

すなわち、「こうして、形の上では顧客を立てて仕事をしているが、実際には、自分が顧客を意のままに操っているのだ」と思いたがる「小さなエゴの願望」に流されていくのである。

ただ、こうして語ってくると、疑問の声が挙がるだろう。

「相手を意のままに操る『操作主義』への警句を述べているが、では、我々が、人を動かそうとすることは、全て『操作主義』であり、否定されることなのか?」

大切な疑問である。

それゆえ、端的に答えておこう。

相手を「動かそう」とすることが「操作主義」なのではない。

相手に対する「敬意」を持たず、相手を「一人の人間」として見つめず、あたかも「物」を動かすように、自分の思うままに操ろうとすること、それが「操作主義」である。

例えば「部下のモチベーションを高める」という言葉。

この言葉は、部下を「一人の人間」として敬意を持って見つめ、その部下に対する「仕事に働き甲斐を感じられるように」という愛情から出てくる言葉ならば、それは決して「操作主義」ではない。

しかし、この言葉が、「仕事の生産性を上げるために、部下という『歯車』を、うまく回るようにしなければ、部下という『馬』を、速く走るようにしなければ」という発想から出てくるならば、それは「操作主義」である。

では、我々が、この「操作主義」に流されると、何が起こるか?

仕事において、必ず「壁」に突き当たる。

なぜなら「操作主義」は、必ず、見抜かれる。

そして、相手の心が、離れていく。

 

「小さなエゴ」が生じることは誰にでもあることだと思います。

しかし、「この小さなエゴ」に気づかず、相手を意のままに操ろうとする自身の気持ちに気がつくことで、相手との関りを見つめなおすきっかけになるのでしょうね・・・。

指示をする立場の人間はこの「操作主義」に陥ると、信頼が得られず必要な指示も相手に響かなくなってしまいます。

ご利用者支援においても、「支援者側の都合の良いようにご利用者を操作する」意識が「操作主義」的な考えなんでしょうね。

「1人の人間として敬意を持って見つめる」

その姿勢が相手に伝わると信じ、対人関係を構築していきたいですね!